「はい、跡部部長?・・・・・・・・・はい。・・・・・・はい。・・・・・・・・・・・・・・・はい、わかりました。ご連絡ありがとうございました。失礼します。」
そう言って、私は携帯電話を閉じて、鞄のポケットに仕舞った。
「何だって、跡部部長。」
「今日は跡部部長のクラス、話し合いがあって、部活に遅れそうなんだって。」
「じゃあ、宍戸さんは来れるんだよね?」
「わっ、鳳くん。いつの間に?」
「ヒドイなぁー。ちゃんのケータイが鳴る前から居たのにー・・・。」
鳳くんは、2人で楽しそうに話してたから仕方ないよねー、とも言っていて、日吉に本気で睨まれてた。
・・・この2人は、仲良くないよなぁと思う。まぁ、もちろん本当に仲が悪いわけじゃないし、十中八九鳳くんが余計なことを言う所為だ。
私は(・・・恥ずかしくて言えませんが、日吉のことが好きだから)ともかくとして、日吉が私と楽しそうに話してたから鳳くんに気付かなかったなんて、そんなことはない。たぶん、私の携帯の音に反応してしまって、そっちに注意がいかなかっただけだ。
なのに、こんな風に言うから、いつもこの2人は何だか険悪ムード。
「で、何しに来たんだよ。」
「ん?今、ご飯食べ終わって、暇だから、2人の邪魔しに来た。さっきまで、雨降ってたから、日吉も居るだろうなぁと思って。」
たしかに、鳳くんの言う通り、さっき短い時間だったけど、大雨が降った。だから、昼休みにいつも練習に行く日吉も、今行けばコートの状態が悪いだろうと、久々に教室に残っていた。
この機を逃すまいと、私は日吉の近くの席を借り、一緒にご飯を食べ、ちょっと喋ったりしているところに、跡部部長からの電話があり、鳳くんに邪魔・・・・・・じゃなくて、鳳くんが来たというところだ。・・・決して、鳳くんが邪魔だなんて、一欠けらも思っていません。
「用事が無いなら、かえ・・・。」
「ところで、ちゃん。ケータイのストラップ、見せて?」
「ちっ・・・。」
え〜っと・・・。今、日吉は明らかに「帰れ」って言ったよね?それを遮るように・・・と言うか、実際に遮って、鳳くんが私に喋ったあと、日吉は明らかに舌打ちしましたよね?
そんな状況に居る私の立場も考えてほしいなぁ・・・。とは思いつつも、一応私は鳳くんの言う通り、鞄から携帯を取り出した。
「ストラップ・・・?別にいいけど。・・・・・・はい。」
「あぁ、やっぱり!さっきチラッと見えたとき、カワイイなぁとは思ったんだけど、よく見てもカワイイよね。このヒヨコのストラップ!」
「・・・うん。そうでしょ?」
「いや、本当カワイイよ。このヒヨコ!俺も気に入ったよ、このヒヨコ!うんうん。カワイイね、ヒヨコ。」
「鳳。うるさい。」
「なんで?日吉も思わない?このヒヨコ、カワイイよね?」
「・・・・・・・・・・・・知るか。」
「何、ちゃんのセンスが悪いって言うの?」
「そういう意味じゃない。俺は、そういうのに興味が無いだけだ。」
「ふ〜ん。でも、カワイイよ。このヒヨコ。ね、ちゃん。」
さすがに私も疲れた。・・・ヒヨコ、ヒヨコ、うるさいよ、鳳くん。その度に、ドキッとするんだから、本当に疲れる。今更、携帯を取り出したことに、私はちょっと後悔した。
「でも、どうして、ヒヨコ?ちゃん、ヒヨコ好きなの?」
・・・ついに、触れられてしまった、その話題。もちろん、ヒヨコも好きだ。動物が好きだし。犬だって、猫だって、兎だって、鶏だって、好きだ。ただ、特別にヒヨコが好きなわけじゃない。
そんなの響きが好きなだけ。だって、ほら。一文字違いだもん。そんなこと本人の目の前で言ったら、怒られるだろうし、私も恥ずかしいから言わないけど。その代わり、私はさっき思ったことを言った。
「まぁ、ヒヨコも好きだけど。特別好きってわけじゃないかな。犬や猫だって好きだし。」
「じゃ、どうして?」
「ん〜・・・。このストラップが可愛かったから、つい買ったってだけかな。」
「そーなんだー。・・・・・・それにしても、ヒヨコって、何だか日吉と響きが似てるよね。」
さっきから、やたらと聞いてくると思ったら・・・。鳳くん、絶対にわかって言ってたんだ・・・!!私がヒヨコのストラップを付けてる本当の理由を・・・!!
「馬鹿にしてるのか、鳳?」
「違うって、日吉!でも、日吉とは一文字違いだもん!ね、ちゃん?」
「あー、そうだね!言われてみれば、日吉と一文字違いだね。でも、ヒヨコと一緒にするのは、失礼だよ。」
ほら、やっぱり日吉は嫌そうな顔をしてる。私もそう思ったから買ったとは言わなくて良かった。だから、私は今気付きましたみたいな顔をして、責任は全部鳳くんに転嫁した。・・・まぁ、言い始めたのが鳳くんだからね!
「・・・よし。決めた!今日から、このヒヨコは『ひよし』と名付けよう!」
「は?!」
「な、何言ってんの?!鳳くん!!」
「『ひよ子』と書いて『ひよし』ね。」
「そんなお前のくだらないこだわりは聞いてない。」
「いいじゃん。いいよね、ちゃん。」
「いや、私は・・・。」
「はい、決定!!・・・あ。そろそろ、教室戻んなきゃ。次、移動なんだよねー。それじゃ。『ひよし』にもよろしくね。あ、ひよしって言っても、ヒヨコのひよしだからね。」
そんな訳のわからないことを言い残して、鳳くんは教室に帰っていった。・・・鳳くん、こんな状況に私たちを放置しないでください。
「・・・日吉、ゴメンね。」
「・・・・・・それは、俺に言ってるのか?」
「プッ・・・。当たり前だよ。ゴメンね。なんか、私のストラップの所為で、こんなこと言われて・・・。」
そうは言いつつも、日吉が一瞬でも、私が呼んだ日吉がヒヨコのひよしだと思ったことが可笑しくて、笑えてきた。
「・・・謝る気ないだろ。」
「だって・・・、日吉が・・・。あー、これは日吉の方ね。日吉がひよしと間違えた・・・。プッ・・・。クスクス・・・。日吉が日吉をひよしって・・・。」
「。お前の中では区別が付いているのかもしれないが、聞いてるこっちからすれば、途中から俺の名前を連呼してる変な奴にしか見えないぞ。」
「そうだねー・・・。クスクス・・・。いや、ゴメン。・・・・・・プッ。」
「もういい。勝手にしろ。」
日吉が完全に視線を逸らした。・・・本気で怒らせちゃったみたい。
「本当、ごめんなさい。もう、ヒヨコのひよしとか言いません。」
「どうせ、が言わなくても、鳳が言うだろ。」
「・・・はい、すみません。」
「だから、別に言いたきゃ、そう言えばいい。」
「・・・はい、すみま・・・・・・・・・。え?・・・言っていいの?」
「だから、が言わなくても、鳳が言うだろ。それなら、どっちでもいい。」
「そっか・・・。いや、安心して!本当に言わないよ!まぁ、鳳くんと話してるときは言ったりするかもしれないけど・・・。」
「それでいい。」
あ、いいんだ。日吉は意外と怒ってなかったみたいだ。・・・よかった。本当に怒ってて、嫌われたらどうしようかと思った。
私は思わず、嬉しくなって、携帯を握り、ストラップのヒヨコ・・・のひよ子を見て言った。
「じゃ、これからは、いつでもひよしと一緒に居られるね。」
「馬鹿。」
そう言いながら、日吉が私の頭を軽く叩いた。私は、それに任せて、そのまま下を向いた。・・・だって、自分で言っておいて、今更恥ずかしくなったから、日吉の顔なんて見てられなかった。
「エヘヘ、ごめんなさい。」
「本当・・・馬鹿。」
このやり取りが何となく、バカップルみたいだなぁなんて思ってしまって、また照れたから、私はそのまま下を向いていた。
その後、部活で鳳くんが「やっぱり、『ひよし』じゃなくて『わかし』にしよう!」と言い出したのは、さすがに全力で阻止した。・・・それは、本当に恥ずかしい。
・・・・・・結構・・・無理矢理な気が・・・ゴホン。いえ、何でもありません。そこは皆様がお決めになることですから・・・(汗)。
などと言いながら、名付けは結構気に入ってたりします(笑)。可愛くないですか?ヒヨコのひよし、って(笑)。皆様もヒヨコのグッズは『ひよし』もしくは『わかし』と名付けちゃいましょう!これで、『ひよし』とずっと一緒に居られますよ♪(黙れ)
('09/11/19)